会社比較

鉄鋼大手3社(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼)の決算を比較してみた

2023年3月8日

日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼(鉄鋼大手3社)の売上、事業内容などを比較していきます。

これら3社は全て高炉メーカーであり、日本の高炉メーカーはこの3社のみとなります。日本市場で上場している鉄鋼メーカーは十数社ほどありますが、高炉メーカーが3社しかない理由として、巨大な製鉄所を建設する必要のある参入障壁の高さが挙げられるでしょう。

高炉は電炉と比べて一度に大量の鉄を生産することができるため資本力や研究開発力、社会的影響力が大きく、日本の鉄鋼業界をリードする存在となっています。

一方で高炉は鉄鋼を生産する過程で二酸化炭素を大量に排出するという欠点があり、鉄鋼大手3社はCO2削減という環境問題対策と同時に株式会社として利益を追及する必要がある難しい局面に立たされています。

  1. 日本製鉄 (東証プライム : 5401) 
  2. JFEホールディングス (東証プライム : 5411) 
  3. 神戸製鋼所 (東証プライム : 5406)  

3社の売り上げ、利益規模は以下のようになります。単位 : [百万円](2022年3月期)

  1. 日本製鉄 
    6808890(約6.8兆円)(売上高)
    637321(6373億円)(純利益)
  2. JFEホールディングス
    4365145(約4.3兆円)(売上高)
    288058(2880億円)(純利益)
  3. 神戸製鋼所
    2082582(約2.0兆円)(売上高)
    60083(600億円)(純利益)


鉄鋼メーカーの売上規模

3社の売上規模、営業利益率を見ていきます。(3社とも2022年度3月期の数字)

売上高[百万円]営業利益率海外売上比率
日本製鉄 680889012.4%40%
JFEHD43651459.2%37%
神戸製鋼所20825824.2%35%

日本製鉄が営業利益率という点では飛び抜けています。高炉大手3社間の中でも規模の経済(製造規模が大きいほど単位あたりの製造コストが低くなる)が働いているのでしょうか。

売上高が高い日本製鉄、JFE、神戸製鋼の順に営業利益率は高くなっています。

3社の海外売り上げ比率はさほど変わらず、40%弱となっています。

主な事業内容

鉄鋼メーカーが生産する鉄製品の例は以下のようになります。

  • 厚板
    船舶や建設産業機械、橋梁、海洋構造物などに使用。
  • 薄板
    自動車、家電製品、飲料缶・ドラム缶などの容器類など、日常生活に深く関連している分野に使用。
  • 棒鋼
    橋梁用ケーブルやホッチキス針、PCまくらぎ 、送電線など幅広い分野に使用。
  • 鋼管
    配管・パイプラインやエネルギー採掘、エネルギープラントなど。
  • 形鋼
    建築、土木、造船分野で使用。断面形状によってH形鋼、鋼矢板などの種類がある。
  • ステンレス
    ステンレスはクロムを含む合金であり、空気中の酸素と反応して表面に酸化被膜を形成するため、腐食・サビに強い特徴がある。耐食性、強度が高く、長寿命・環境に優しいという利点がある。
  • スラグ製品
    鉄や鉄鋼を製造する際に発生する溶融状態の不純物や副産物を指す。セメントやアスファルトなどの骨材や路盤材などに再利用されることがある。近年問題となっている磯焼け(海藻が育たない現象)対策にも活用されており、磯焼けした海域へ安定的に鉄イオンを供給して海藻類の生育を助けるという用途もある。
  • 電磁鋼板
    電気の伝達の際のエネルギーロスが少なく、トランスやモーター、発電機、変圧器、インバーター、電源装置など、電力変換に関わる様々な機器に使用。製造の際には鋼材の中でも高い技術力が必要で、電気自動車(EV)に使われるため注目が集まっている、

他にも、鉄鋼メーカーはエンジニアリング事業や化学事業、商社事業、システム(SI)を子会社で展開しています。


日本製鉄 <東証プライム : 5401>

日本製鉄の売上、当期純利益率を見ていきましょう。


2018.32019.32020.32021.32022.3
売上高(連結)5,668,6636,177,9475,921,5254,829,2726,808,890
当期純利益195,061251,169-431,513-32,432637,321

2020年度3月期(2019年4月1日~2020年3月31日)は、当期純利益が-4315億円と大幅な減収減益となっています。

原料高と鋼材価格の下落が同時に起きたことが主な理由として挙げられます。中国政府のインフラ投資が旺盛になったことで主原料価格が高止まりした上に米中貿易摩擦により鋼材価格の下落が生じました。

他にも3179億円の固定資産の減損損失を鹿島、名古屋、広畑の3つの製鉄所で計上したこと、呉製鉄所の一貫休止決定に伴い、呉の固定資産簿価全額相当の減損損失(787億円)を計上したことが挙げられます。製鉄所の老朽化に伴い、維持、改修費用が重荷となっているようです。(決算説明資料)

※減損損失とは、投資によって得た資産による収益の回収が見込めない場合に、その資産の価値を切り下げる会計処理を指します。

2022年度3月期(2021年4月1日~2022年3月31日)は、当期純利益が6373億円と大幅な増収増益となっています。

外部環境がさほど良くなっていないのに関わらず大幅は増益を達成できた理由は、同社の決算説明資料によると鉄事業のコスト改善(損益分岐点の抜本的改善)によるものです。具体的には注⽂構成⾼度化(汎用製品⇒戦略商品へのシフト)や紐付きマージン改善などに細分化されます。

※紐付きとは、鋼材が作られた時点ですでに販売先、納入先が決まっている取引で、自動車産業や造船産業など大量の注文時はこの形態であることが多い。

国内製鉄事業の再構築に積極的に取り組んでおり、国内高炉基数は15⇒10基、粗鋼生産能力は50⇒40百万t/年に落とす一方、労働生産性向上を上げることで外部環境に左右されない収益基盤を確立していくとのことです。

次に、セグメント別売上比、営業利益率を見ていきましょう。(2022年度)(決算短信)(単位 : 億円)

セグメント売上事業利益セグメント利益率
製鉄61,536(88.5%)8,71014.2%
エンジニアリング2,792(4.0%)632.3%
ケミカル&マテリアル2,498(3.6%)25310.1%
システムソリューション2,713(3.9%)30811.4%
合計69,540(100%)9,335-

製鉄事業は売り上げが全体の90%近くあり、セグメント利益率も14.2%と4つのセグメントの中でもトップの利益率です。

2022年度の製鉄事業の事業利益は8710億円(2022年度)ですが、前年度は635億円であり、製鉄事業は大幅な増益を達成しています。

JFEホールディングス <東証プライム : 5411>

JFEHDの売上、当期純利益率を見ていきましょう。


2018.32019.32020.32021.32022.3
売上高(連結)3,678,6123,873,6623,729,7173,227,2854,365,145
当期純利益144,638163,509-197,744-21,868288,058

2020年度3月期(2019年4月1日~2020年3月31日)は、当期純利益が-1974億円と大幅な減収減益となっています。

同社の決算短信によると、米中貿易摩擦による製造業を中心とした鉄鋼需要の低迷、中国の粗鋼生産拡大に伴う鉄鉱石価格の高止まり、資材費、物流費などの物価上昇などの外部環境の悪化に加え、国内設備の老朽化により今後多額の更新投資が必要とされることからJFEスチール東日本製鉄所の構造改革に伴う減損損失を計上したためとあります。日本製鉄と同様に、外部環境の悪化と製鉄所の減損損失の2つの要因で2020年度3月は多額の赤字となっています。

2022年度3月期(2021年4月1日~2022年3月31日)は、当期純利益が2880億円と大幅な増収増益となっています。

この理由は、新型コロナウイルス影響を大きく受けた2020年度からは受給環境が大幅に回復したことや主原料コストの販売価格への早期反映、グループ会社収益性の改善によるものです(決算説明資料)。日鉄と同様、リーマンショック以来の最高益を上げています。

次に、セグメント別売上比、営業利益率を見ていきましょう。(2022年度)(決算短信)(単位 : 億円)

セグメント売上事業利益セグメント利益率
鉄鋼27,900(63.9%)3,23711.6%
エンジニアリング4,968(11.4%)2605.2%
商社10,782(24.7%)5595.2%
合計43,651(100%)4,057-

日本製鉄と比べると鉄事業の売り上げが全体に占める割合(63.9%)は低く、商社事業(JFE商事)の割合が約25%と高めになっています。

鉄鋼事業のセグメント利益率は日鉄よりも少し低く11.6%となっています。

神戸製鋼所 <東証プライム : 5406> 

神戸製鋼所の売上、当期純利益率を見ていきましょう。


2018.32019.32020.32021.32022.3
売上高(連結)1,881,1581,971,8691,869,8351,705,5662,082,582
当期純利益63,18835,940-68,00823,23460,083

2020年度3月期(2019年4月1日~2020年3月31日)は、当期純利益が-680億円と大幅な減収減益となっています。

この理由は上記の2社と似たところがあり、外部環境の悪化とチタン事業、アルミサスペンション事業などで固定資産減損損失を計上したことによります。(決算説明資料)

2022年度3月期(2021年4月1日~2022年3月31日)は、当期純利益が600億円と大幅な増収増益となっています。

決算説明資料によると売上高は新型コロナウイルス感染症の拡大影響を受けた前期に比べて、素材系を中心に販売数量が増加したため増収となり、経常損益は鉄鋼において原料価格の上昇に伴うメタルスプレッドの悪化があるものの、販売数量の増加や、在庫評価影響の改善などにより増益となりました。

次に、セグメント別売上比、営業利益率を見ていきましょう。(2022年度)(決算短信)(単位 : 億円)

セグメント売上比(計100%)事業利益セグメント利益率
鉄鋼アルミ9,149(43.9%)3754.1%
素形材3,332(16.0%)511.5%
溶接769(3.7%)273.5%
機械1,668(8.0%)1257.5%
エンジニアリング1,356(6.5%)775.7%
建設機械3,716(17.8%)1203.2%
電力1,098(5.3%)13212.0%
その他288(1.4%)7024.3%
合計20,825(調整後)932-

神戸製鋼は建設機械事業(KOBELCO建機)や電力事業を有しているという特徴があります。

電力供給事業はトップクラスの利益率を誇り、神戸、栃木に発電所を有しています。神戸発電所では関西電力へと全量を供給し、神戸市の夏場のピーク電力需要の約7割を賄える規模です。

栃木の真岡発電所は、内陸に位置し津波に遭う危険がないという点で国内でも珍しい火力発電所となっています。

社員の年収、平均年齢

売上社員数(連結)社員数(単体)平均年齢平均年収
日本製鉄6,808,890[百万円]106528人28708人38.5歳535万円
JFEHD4,365,145[百万円]64296人51人46.0歳959万円
神戸製鋼所2,082,582[百万円]38106人11296人38.9歳546万円

JFEHDの単体の社員数が51人、平均年齢は46歳、平均年収は959万円と飛び抜けて多いですが、これはJFEHDが持株会社であることに由来しています。

売上高と連結の社員数は概ね比例関係にあり、社員一人当たりの売上高は3社とも差はあまりありません。

日本製鉄と神戸製鋼所の平均年収はどちらも500万円代前半と全業種の中でも低めの部類にあります。

これは、社員の平均年齢が比較的低く、若手社員の割合が大きいことが関係していそうです。また、全社員のうち、製鉄所で働く比較的給与水準の低めな現場作業員の割合が多いことも関係がありそうです。

まとめ

今回の記事では鉄鋼大手3社(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼)を取り上げました。

3社とも、2020年度(2019年4月1日~2020年3月31日)は主原料価格の上昇と鋼材価格の下落という外部環境の悪化を受け大幅な減益となりました。

外部環境の悪化を踏まえてより本格的に製鉄所のコストカットや販売する鋼材価格の見直しに専念した結果、2022年度(2021年4月1日~2022年3月31日)は受給環境が回復したことも踏まえて大幅な増収を達成しました。

3社を取り巻く世界情勢は目まぐるしく変化しつつありますが、3社の業績や動向を引き続きウォッチしていきたいですね。

※参考

会社四季報 2023年1集 東洋経済社

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