会社比較

海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)の決算を比較してみた

2023年1月8日

日本の海運大手3社の売上、事業内容などを比較していきます。

3社の売り上げ、利益規模は以下のようになります。単位 : [百万円](2022年3月期)

  1. 日本郵船 <東証プライム : 9101> 
    2280775(売上高) 1009105(純利益)
  2. 商船三井 <東証プライム : 9104>  
    1269310(売上高) 708819(純利益)
  3. 川崎汽船 <東証プライム : 9107>  
    756983(売上高) 642424(純利益)


事業内容

日本郵船、商船三井、川崎汽船の事業内容は、貨物船での海運だけではなく、陸運、空運まで多岐に渡っています。

海運事業

  • 定期船(コンテナ船)
    決められた航路、スケジュールで航行。食料品や日用品、家電製品などを運ぶ。
  • 不定期船
    船を貸し切り、顧客一人一人に合わせた航路、スケジュールで航行。
    • ドライバルク事業
      鉄鉱石、石炭、木材チップなどのバルク貨物(梱包されずにバラバラで積まれる)
    • 自動車輸出
    • エネルギー部門(原油、LNG、石油など)
    • 海洋開発

陸運事業

  • 物流(ロジスティクス)
    貨物船に積荷される前後で、トラックや鉄道での物流サービスを提供。

空運事業(※日本郵船)

  • 日本郵船は子会社「日本貨物航空」で航空輸送を展開。



海運事業の特徴

海運事業の特徴として、市況(景気)の影響を非常に受けやすい業界であることが挙げられます。


下記はドライバルク船の運賃指数(BDI)の推移のグラフです。

引用 川崎汽船HP

2020年後半から2021年にかけて、ドライバルク船の運賃が高騰していることがわかります。この理由はコロナ禍が引き起こした以下の3つが挙げられます。

  • 新規コンテナ製造の減少
    コンテナの90%は中国で生産されているが、2019年の米中貿易摩擦やコロナ禍での工場の生産能力低下により新規コンテナ製造が大幅に減少
  • 港湾作業員の不足
  • 貨物輸送の需要の急激な増加
    巣ごもり需要の増加により、中国から欧州、北米への輸出量はむしろ増加

他にも

  • 原油価格(貨物船の燃料)
  • 為替(海運業界での決済はドルであることが多い)

などの要因によって海運会社の業績は良くも悪くも振り回されることになります。

また、貨物船の運賃は、運賃安定型事業と運賃安定型以外の事業に分類され、運賃安定型事業は中長期契約なのに対し、運賃安定型以外の事業は短期契約であるという違いがあります。

引用 日本郵船 決算資料

コロナ禍による海運の混乱の中、短期契約が多い運賃安定型以外の事業が2020年、2021年と大きく利益を稼いでいることがわかります。


事業別売上比

日本郵船のセグメント売上比を見ていきましょう。

セグメント売上比経常利益率
定期船8%385%
航空運送8%39%
物流37%7%
不定期船43%14%
その他4%-1%

日本郵船が持つ航空運送分野は、定期船に次ぐ経常利益率を上げています。

次に、商船三井です。

セグメント売上比経常利益率
コンテナ船(定期船)22%236%
ドライバルク船28%12%
エネルギー、海洋23%7%
自動車船、フェリー、内航RORO船19%4%
その他8%8%

商船三井は"エネルギー、海洋事業"の割合が高く、タンカー、オフショア、石炭船、風力エネルギー、液化ガスといった分野に強みを持ちます。

さらに海洋開発にも力を入れており、船を輸送のためではなく特定の場所に浮かべて活用するFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)やFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)は商船三井の代表的な海洋事業です。他にも不動産業など非海運分野にも積極投資しています。

最後に川崎汽船です。

セグメント売上比経常利益率
製品物流50%163%
ドライバルク船37%9%
エネルギー資源12%5%
その他1%0%

※製品物流事業の9割以上は定期船(コンテナ船)が占める。

3社とも定期船の利益率が圧倒的に高いことがわかります。この3社の定期船事業は2018年4月に、3社が共同出資して設立した持分法適用会社"ONE"によるものです。海外大手船社の統廃合等業界再編の波も起きる中、規模の経済による競争力確保のため互いにライバルであった3社も、ONEのブランドの下に定期航路事業運営を行っています。

3社の定期船事業が全体の売上に占める割合は、川崎汽船(45%前後) > 商船三井(22%) >日本郵船(8%) となっています。

定期船は、川崎汽船の中核事業であるのに対し、陸海空の総合路線を貫く日本郵船の定期船事業の売上比は8%に留まっています。

売上高、純利益の推移

コロナ禍前後の海運業界の売上、純利益推移の例として、日本郵船を取り上げます。

2018年、2019年とコロナ禍以降の2021年と2022年を比較すると、売上高は緩やかな増加なのに対し純利益は10倍以上にまで増加しています。

これは物流の混乱による貨物船の運賃の高騰によるもので、海運業界がいかに市況の影響を受けやすいかを示しています。

財務

損益決算書の例として、商船三井を取り上げます。

2022年度3月期

売上高   1269310[百万円]

営業利益  55005[百万円]

経常利益  721779[百万円]

純利益   708819[百万円]

通常は営業利益≒経常利益となることが多いですが、営業利益(55505)<<<経常利益(721779)となっていることがわかります。

これは、定期船事業(コンテナ船)事業を手がける持分法適用会社"ONE"の利益が営業外収益として経常利益に加算されているためです。

100%超の圧倒的な利益率を誇る定期船事業が営業外収益に加算されることで、経常利益>>>営業利益となっているのです。

次に、海運業界のキャッシュフローの例として川崎汽船を取り上げます。

引用 川崎汽船HP

2022年は営業キャッシュフローが大幅に増加する一方、財務キャッシュフローは主に配当金の支払いのため大きなマイナスとなっています。

(2020年3月期、2021年3月期は無配だったのに対し、2022年3月期は1株あたり600円の配当)

これほどの配当金を支払っても現金の額は確実に増加しています。

また投資キャッシュフローは、大規模な投資を必要とする海運業界の性質上、年ごとに大きく変動があります。大規模な投資の例として、貨物船の建造や海洋開発(液化ガス新事業やFPSOなど)が挙げられます。


社員の年収、平均年齢

売上社員数(連結)社員数(単体)平均年収
日本郵船2280775[百万円]35081人1308人1082万円
商船三井1269310[百万円]8547人1098人1072万円
川崎汽船756982[百万円]5390人821人990万円

3社とも社員の年収はかなり高水準ですね。

日本郵船の連結の社員数は35081人と飛び抜けて多く、陸海空と幅広く事業展開しているためか関連会社、子会社の社員数が多いようです。

また川崎汽船の売上高に対する社員数はかなり少ないです。売上高は日本郵船の約3分の1ですが、連結の社員数は約6分の1となっており、単純計算すれば川崎汽船の社員の一人あたりの売上高は日本郵船の2倍ということになります。この点は商船三井でも同様で、社員一人あたりの売上高は商船三井≒川崎汽船>日本郵船となります。

また川崎汽船のROEは117%と、3社の中では最も高くなっており、経営の効率で言えば川崎汽船に軍配が上がりそうです。

今後の展望

空前の好決算に沸く海運業界ですが、定期船、不定期船ともに運賃は下落傾向にあり、2024年期は2022年、2023年期ほどの利益が上がらないと見込まれています。2023年期の決算でも運賃が高騰していた上期の稼ぎが通期の大半を占めており、下期は円安によって利益が支えられているという構造になっています。

現在は3社とも配当利回りが10%近くあり非常に景気が良い状況にありますが、来たる景気後退がどのように海運3社の決算に影響するのか引き続き注目していきたいと思います。

-会社比較